特定技能と育成就労外国人そして中小企業の話

特定技能外国人制度が始まり数年がたち、特定技能の在留資格で労働する外国人もだいぶ増えてきました。

そんな中、現在色々と問題視されている技能実習制度に代わり、育成就労という在留資格が生まれようとしています。

技能実習制度と育成就労の違い(もっと言えば特定技能ともですが)それらの違いをまだ分かっていない日本の経営者の方がたくさんいるようです。

技能実習制度は、外国人が日本に来て、技能を学び身に付け、その技能を母国で活かすための国際貢献の一環の制度。

特定技能は、人手不足の日本の企業で外国人労働者に労働してもらうための制度。

育成就労は、特定技能外国人レベルの技能を身に付けてもらい、日本企業での人手不足を補ってもらえる人材を育てる、いわば「新入社員教育」期間の在留資格制度です。

技能実習制度を定めた法令関係は、実はそこそこまともな法律です。でも外国人を受け入れる日本企業の側が、低賃金労働者、技能を教えてやってる、という上から目線の意識が働き、技能実習外国人の人権を無視した扱いをしてきたことが問題でした。

もちろん、そのような実態があるにもかかわらず、政府も国会も、表では法の趣旨ばかり主張し、実際は人手不足の事業者団体の要望を聞いて、制度運用を歪めていました。その結果、外国人の人権を無視したような運用が長年にわたり続いてしまっていました。

そこで、新しい制度として生まれる予定の育成就労という、正面から労働者の受け入れという制度に切り替え、さらに人手不足を補うための特定技能の前段階であるという位置づけにして、正当な労働者として扱おうという話になってきていました。

が!結局立法は政治で、業界団体からの要望に「現時点では」屈した内容になってしまいそうな状態です。

それは何かというと「転籍制限」です。

育成就労外国人は、1年間(場合によってはもう少し長く)転籍(職種は変わらないので、転職ではなく転籍と表現されています)を制限する立法がなされる可能性が高いです。

確かに、色々教えたのに、いざ使えるようになったときに他の会社に移られたらつらいのは分かります。でもよく考えてください、会社のことや技能や技術を持たない新人が入社してくるのなんて、新卒採用と全く同じですよね?日本人の新卒採用者は転職制限しないのに、なぜ外国人は制限できるのでしょう?ここに、まだ「技能実習との違いが理解できていない」というのが表れています。

私個人の見解ですが、育成就労の転籍制限は憲法違反の恐れがあると思っています。

確かに、労働基準法では機関の定めのある労働契約は3年までならOKですが、育成就労は「期間の定めのある労働契約」でしょうか?私にはそうは思えません。条件(在留資格)付き無期雇用契約なはずです。であるならば、契約解除はいつでも可能でなければいけません。

もし、日本人の新卒の人が、SNSで無期で就職決まったけど1年間退職も転職も禁止とか言われたんだけどこの会社おかしくね?とつぶやいたものなら、大炎上で労基署が入って、フルボッコですよね?

仕事はさせてやる、でも逃げ出すなよ!って、奴隷と一緒じゃないですか?

この法律が立法される前には、必ずパブリックコメントが実施されるはずですので、しっかりとコメントしていこうと思っています。

さて、もし仮にこの転籍制限が付くとしても、それでも外国人労働者の人権を守るためにはどうすればよいのか?私なりに考えてみました。

もちろん、地方の中小企業の人手不足(言い換えれば労働者の都市集中)の解消も特定技能の目的に含まれていましたので、それも踏まえた内容です。

そして、今後立法化される育成就労外国人にも関係する大事な提案です。

結論から言いますと、育成就労及び特定技能外国人は、クローズドショップ型の職業別労働組合加入を条件にするというものです。

なぜこのような方法が良いと考えるかご説明します。

まず、クローズドショップ型とは、組合に加入している労働者しか雇用してはいけないというものです。日本では無いですが、海外では存在します。

そして企業は、当該組合からしか労働者を雇い入れることができないので、労働条件などは労働組合と話し合い決めることになります。そのため、会社の規模に関係なく賃金などの労働条件が決まる形になります。つまり、都心の大企業であろうが、地方の中小企業だろうが、労働条件(賃金等)は同じになるので、都市集中ということがなくなります。

今ある監理団体等は、企業側からお金をもらい運営されているので、どうしても企業側に厳しく対応することが見込めませんが、労働組合は「労働者のための団体」ですので、100%労働者の立場で企業に対して対応して行きます。

とはいえ、外国人が自分たちで労働組合を作ることはすぐには難しいですし、初めのうちは法律の専門家が役員を務めるべきでしょう。

交渉という部分が発生しますし、法律の理解ということを考えれば弁護士さんが最適です。

そして、労働法の専門家である社労士も加わるべきでしょう。特に特定社労士は関与すべきと思います。

上記弁護士と社労士は会社との間の対応、そして、外部行政機関との対応は、労働局や労基署は社労士、入管や役所は行政書士が最適でしょう。

このような専門家が、労働者の側にたってしっかり労働条件や法令順守のサポートをして行ける形にして、初めて法が理想としている外国人の労働環境が整うと考えています。

立法問題ですから最終的には政治家に任せるしかない部分ですが、やはり現場で見聞きしている専門家である士業がかかわり、しっかりと外国人労働者の人権を守ることで、失踪して犯罪に手を染めるような外国人ではなく、しっかりと日本企業を支えてくれるような技能を身に付けようとし、また技能を身に付けた外国人に選んでもらえる、そんな国になって行き、日本人も外国人も快適に暮らして行ける国になっていってほしいと、心から願っています。

そのためにも、業界団体の変な要望に屈して、外国人の人権侵害となるような立法にならないよう、ぎりぎりまで意見をしてゆきたいと思います。