出入国管理及び難民認定法及び外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律の一部を改正する法律案の新旧対照表に目を通してみた

まずは「出入国管理及び難民認定法」

・特定技能所属機関は、第十九条の二十七第一項に規定する登録支援機関以外の者に一号特定技能外国人支援の全部又は一部の実施を委託してはならない。

 これは、旧規定では「ほかの者」に「委託することができる」という規定だったものを、登録支援機関以外には委託してはダメという内容になるということ。

・永住許可に関して明確に「この法律に規定する義務の遵守、公租公課の支払等」が法令の条文として要件化されたこと。

・永住者の在留資格の取り消しが定められたこと。

 当該取り消し事由として、「この法律に規定する義務を遵守せず(第十一号及び第十二号に掲げる事実に該当する場合を除く。)、又は故意に公租公課の支払をしないこと。」、当然に刑法関係の違反、窃盗(特殊開錠用具所持含む)も含まれ、さらに「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第二条」が含まれている。

 自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第二条とは「危険運転致死傷」なので当然といえば当然ですかね。

 要は「悪質な犯罪者」や「故意の義務不履行者」からは、永住権をはく奪という内容です。

 とはいえ、即「在留資格喪失」というわけではなく、次のような定めもあります。

 「在留資格(永住者)の取消しをしようとする場合には、当該外国人が引き続き本邦に在留することが適当でないと認める場合を<除き>、永住者の在留資格<以外の>在留資格への変更を許可するものとする」です。

 要は、「期限のない在留資格(永住)」から「期限のある在留資格に降格」という訳です。

 有力なのは「定住者」や、結婚をしていれば「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」「家族滞在」でしょうか。悪質な場合は当然「変更を許可しない」ということも可能な条文ですので、その場合は在留資格を失い「国外退去」ですね。

・在留資格の取消しに係る通報も定められています。

 国民は当然に通報できますが、今回新設されたのは「国又は地方公共団体の職員」についてです。

 もちろん通報は義務ではなく任意ということで、「その旨を通報することができる」という文言になっています。

・企業内転勤の幅が広がります。

 これまでは、技術・人文知識・国際業務に関する業務に限られていましたが、「技能、技術又は知識」もその範囲に含まれるようです。

 最もわかりやすい例でいうと、世界各国にホテル事業を展開している会社で、各国にいるコック(調理師)を企業内転勤で呼べるようになるということでしょう。

次に「外国人の育成就労の適正な実施及び育成就労外国人の保護に関する法律」

・これに関しては大前提の「目的条項の変更」からスタートすね。

 技能実習の「開発途上地域等への技能、技術又は知識(以下「技能等」という。)の移転による国際協力」から、育成就労として「育成就労産業分野に属する相当程度の知識又は経験を必要とする技能を有する人材を育成するとともに、育成就労産業分野における人材を確保する」という目的の大転換です。

 これにより、堂々と日本国内の事情(事業団体の都合)で外国人を呼べるようになります。

・技能実習では、外国人の母国での費用負担も問題になっていましたので「当該外国人が送出機関に支払った費用の額が、育成就労外国人の保護の観点から適正なものとして主務省令で定める基準に適合していること。」という「育成就労計画」の認定基準が設けられています。

・「監理支援費」について、これは技能実習の時にも同様の定めがありましたが、少し変えたほうが良いと思っています。

 条文は「監理支援機関は、監理支援事業に関し、監理型育成就労実施者等、監理型育成就労外国人等その他の関係者から、いかなる名義でも、手数料又は報酬を受けてはならない。」という部分は問題ないですが、「監理支援機関は、監理支援事業に通常必要となる経費等を勘案して主務省令で定める適正な種類及び額の監理支援費をその用途及び金額を明示した上で監理型育成就労実施者等から徴収することができる。」という部分。

 経費等を「監理型育成就労実施者等から徴収」はいいとしても、それを更に育成就労外国人の給与から支払い(天引き)することの制限が定められていません。すべて事業者(監理型育成就労実施者等)が負担すべきとは言いませんが、育成就労外国人の給与から支払いの可能性があるので、当該経費の一定割合以上を外国人に負担させてはならないという制限は設けるべきだと思います。

・「秘密保持義務」違反に刑罰適用されます。

 「監理支援機関の役員若しくは職員又はこれらの者であった者は、正当な理由なく、その業務に関して知ることができた秘密を漏らし、又は盗用してはならない。」に違反した場合、「一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金」です。(その他、報告義務違反でも30万円以下の罰金です)

次に「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」

・「不法就労助長」も対象になるようです。

 当該法律では「「団体」とは、共同の目的を有する多数人の継続的結合体であって、その目的又は意思を実現する行為の全部又は一部が組織(指揮命令に基づき、あらかじめ定められた任務の分担に従って構成員が一体として行動する人の結合体をいう。以下同じ。)により反復して行われるものをいう。」と定められていますので、これまで個人の不法就労助長は処罰対象でしたが、団体もその対象になるということです。

<全体を通して>

 個人的には、育成就労は「新卒」と同様と見るべきと考えています。

 つまり、転職の制限を設けるべきではないということです。

 しかし、業界全体として必要な人材(技能を持つ人材)が必要であるということも理解はできます。

 であれば、建設キャリアアップシステム(CCUS)のようなものを業界毎に作成し、それを確認すれば、その育成就労外国人がどの段階まで技能を身に着けているのかを確認できるようになるので、特定の企業で長期間拘束する必要性はなくなるはずです。

 そもそも、新卒を雇用するときにそんなことしていないので(そんなことしたら憲法問題ですので)、最長2年?程度の転職制限条項は、あまりにも業界に寄りすぎ(外国人の人権軽視)で、技能実習との違いをより曖昧にし、諸外国からの批判のネタを残す内容だと思っています。

 国会内で議論され始めたばかりですので、多少は内容が変わる可能性はありますが、行政書士としても社会保険労務士としても、この関連法令の改正には引き続き注目していこうと思います。