個別労働紛争解決手続代理業務(特定社会保険労務士業務)とは

個別労働紛争解決手続代理業務とは、社会保険労務士法第二条第2項に基づき行える業務です。

そして、その条文に「第十四条の十一の三第一項の規定による付記を受けた社会保険労務士(以下「特定社会保険労務士」という。)に限り、行うことができる。」と定められているので、諸々省略して社労士界隈では「特定社労士業務」と称している業務がそれにあたります。

個別労働紛争解決手続きとはどのようなものか?以下に例も含めご説明します。

※ 特定社会保険労務士が関与できる紛争は、受任した(または受任予定の)「個別労働紛争(使用者 対 労働者個人>)」ですので「労働組合(団体)の代理人としての交渉(労働組合の代理人として使用者との交渉)」や「労働組合(団体)との交渉(使用者を代理して労働組合との交渉)」は特定社会保険労務士であっても行うことはできませせん。(弁護士法違反となります。)

 ただし、使用者側の代表や組合側の代表と「共に」出席し、助言を行うなどの行為を妨げるものではありません。

    根拠法令及び条文    紛争となりうる代表的な事情(例)
個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第六条第一項の紛争調整委員会における同法第五条第一項のあつせんの手続の当事者を代理都道府県労働局の紛争調整委員会にあっせんを申し立てた事案。  
障害者の雇用の促進等に関する法律第七十四条の七第一項の調停の手続(労働者の募集及び採用についての紛争を除く。)
賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について障害者でない者との不当な差別的取扱いを受けた場合。
労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律第三十条の六第一項の調停の手続の当事者を代理いわゆる「パワハラ」に関し相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置が講じられていない場合、それらの相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いを受けた場合。
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律第十八条第一項の調停の手続の当事者を代理(労働者の募集及び採用に係るものを除く。)
労働者の性別を理由として①労働者の配置②住宅資金の貸付けその他これに準ずる福利厚生の措置③労働者の職種及び雇用形態の変更④退職の勧奨、定年及び解雇並びに労働契約の更新。
女性労働者への婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱い。
いわゆる「セクハラ」「マタハラ」の相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置が講じられていない場合、それらの相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いを受けた場合。
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第四十七条の八第一項の調停の手続の当事者を代理基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情に関する不合理な相違。
派遣元事業主から労働条件に関する文書の交付や説明等を受けられない場合。
上記の説明等を求めをしたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いを受けた場合。
育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律第五十二条の五第一項の調停の手続の当事者を代理育児休業、介護休業その他の子の養育又は家族の介護を利用したことにより、他の労働者などからの言動で就業環境が害されることの無いよう相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置が講じられていない場合。
短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律第二十五条第一項の調停の手続の当事者を代理雇い入れ時労働条件に関する特定の事項に関する文書の交付等。
基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて不合理と認められる相違がある場合。
職務の内容が通常の労働者と同一の場合で、短時間・有期雇用労働者であることを理由に基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをされている場合。
地方自治法第百八十条の二の規定に基づく都道府県知事の委任を受けて都道府県労働委員会が行う個別労働関係紛争の当事者を代理(労働関係調整法第六条に規定する労働争議に当たる紛争及び行政執行法人の労働関係に関する法律第二十六条第一項に規定する紛争並びに労働者の募集及び採用に関する事項についての紛争を除く。)都道府県労働委員会が行う個別労働関係紛争
個別労働関係紛争(紛争の目的の価額が百二十万円を超える場合には、弁護士が同一の依頼者から受任しているものに限る。)に関する民間紛争解決手続第二条第一号に規定する民間紛争解決手続紛争の当事者を代理いわゆる「民間ADR」で、個別労働関係紛争の目的の価額が120万円以下の紛争。
※ 民間ADR以外では120万円の制限はありません。
※ 上記で言う「調停」とは、裁判所ではなく「労働局」などの行政機関で行われる調停です。※ 民間ADRとして、社会保険労務士会は各都道府県に「労働紛争解決センター」を設けています。

 

特定社会保険労務士が行う個別労働関係紛争解決手続き代理業務を説明します。

1.相談業務とは

 上の表に該当する紛争なのか?該当する場合はどのような対応方法があるのか?などの相談に応じる業務です。

 当該相談業務は社労士法第二条第3項第一号で定められており、逆に言うと、特定社労士の付記を受けていない社労士は、これらの相談にも応じることができません。

 とはいえ、相談の依頼があった時点で判断ができない場合がありますので、お話をある程度聞いて、その内容が特定社労士でなければ対応できないものであると判明した場合は、付記を受けていない社労士は身を引かなければ(他の特定社労士を紹介などしなければ)いけません。

2.代理業務とは

 当該代理業務には社労士法第二条第3項第二号(和解の交渉)、三号(合意内容の契約締結)が含まれます。

 ただし、社労士法第二条第3項第二号の和解の交渉は「紛争解決手続の開始から終了に至るまでの間」という制限が設けられています。

 そのため、調停やあっせん手続き代理を受任していない時点での交渉は行えません。(受任していないときにそれらを行うと「弁護士法違反」となります。)

 例:ただ単に、労働者から使用者(会社)に対し、未払い残業代の請求をするいわゆる民事に関しては、特定社労士でも受任や交渉は行えない。

以上が個別労働紛争解決手続代理業務(特定社労士業務)全般の説明です。