労働者のための労働保険と社会保険⑱

第18回 障害年金

1. まずここだけ押さえる(結論サマリー)

  • 障害年金は2種類
    • 障害基礎年金(1級・2級)…国民年金。

    • 障害厚生年金(1〜3級)+障害手当金(一時金)…厚生年金加入者が対象。
  • 初診日と加入種別:
    初診日に加入していた年金の種類(第1号・第2号・第3号)で、請求できる障害年金の種類が確定
    例)初診日が2号(会社員等)→障害厚生年金(+必要に応じ基礎)/初診日が1号・第3→障害基礎年金。
  • 請求の方式(3つ)
    • 認定日請求…初診日から1年6か月(障害認定日)時点で2級以上に該当→過去分も遡及(原則5年、65歳以降は請求不可)。
    • 事後重症請求…障害認定日には2級未満→重くなったと認められた時点の翌月分から支給。(65歳以降は請求不可)

    • はじめて2…認定日には2級未満だったが、その後“初めて”2級以上に達した時から支給(2級以上の障害の状態が65歳未満時点で確認できれば、65歳以降でも請求可能)。
  • 20歳前障害初診日が20歳前のケース全般の呼称。所得制限あり納付要件は不問。認定日は原則20歳到達日。20歳到達時に2級以上なら当時から、未該当なら後日該当時から(この際の開始時期判定に事後重症)。
  • 重要書類:受診状況等証明書(初診日)/診断書(障害種別様式)/病歴・就労状況等申立書

2. 制度の全体像(基礎知識)

  • 二階建てと初診日の位置づけ
    • 初診日が1号・第3(自営・被扶養配偶者等)→障害基礎年金(12級)
    • 初診日が2(会社員等)→障害厚生年金(13級)+必要に応じ障害基礎年金
  • 等級と特徴
    • 障害基礎年金:定額(1級=2級×1.25)、子の加算あり。
    • 障害厚生年金:報酬比例(1級=2級×1.25)、配偶者加給(12級)3は基礎なし。

    • 障害手当金:一時金
  • 20歳前障害の取扱い(方式ではない):初診日が20歳前→所得制限の対象、認定日は20歳到達日。当時2級以上なら20歳時から、未該当なら後日2級以上に至った時点から(開始時点の整理に事後重症/はじめて2の考え方を使う)。
  • 併給・選択の原則:障害厚生年金と老齢厚生年金は選択/障害基礎年金と老齢厚生年金は組合せ可(要件による)/遺族年金は選択関係あり。

3. 判定フロー(支給可否の考え方)

Step1|初診日の特定:最初に医師の診療を受けた日を確定し、受診状況等証明書(初診日と同一の医師・診療機関の場合は診断書)で裏付け。
Step2|初診日時点の加入種別1号・第2号・第3号のどれかを確認(ここで請求できる年金種類が決まる)。
Step3|保険料納付要件:次のいずれかを満たすこと
原則要件(2/3要件):初診日の前日において、初診日の属する月の前々月までの被保険者期間のうち、納付済+免除(全額・一部免除/納付猶予/学生納付特例を含む)の合計が全期間の3分の2以上
直近1年特例初診日の属する月の前々月までの1年間未納がないこと(免除・納付猶予・学生納付特例は未納に含めない)。
20歳前障害は納付要件不問
Step4|障害認定日の判断:初診日から16か月(又は症状固定)時点で等級該当か。※20歳前障害は20歳到達日が原則。
Step5|請求方式の選択: – 認定日請求/事後重症/はじめて2のいずれか。
20歳前障害の場合も、上記の方式名称はそのまま用いる(20歳到達時に該当→認定日請求、未該当→事後重症又は“はじめて2級”で開始時期判定)。
Step6|必要書類:年金請求書、診断書(様式)、受診状況等証明書、病歴・就労状況等申立書、本人確認、口座、マイナンバー 等。
Step7|提出・審査:年金事務所提出→審査→決定。

4. 事例で学ぶ「OKNG」早見

A. うつ病(精神)
OK:初診日=会社員(第2号)を証明、日常生活能力が2級相当→障害厚生年金(2級)
NG:初診日不明・カルテ廃棄で初診日証明が取れず不支給リスク

B. 糖尿病性腎症(内部)
OK:初診日=第2号、透析導入で要件充足→障害厚生年金(2級)
NG:直近1年に未納納付要件不充足

C. 交通事故(肢体)
OK:救急病院の受診が初診日。ADL低下で3→障害厚生年金。
NG:労災のみ手続して障害年金請求を失念遡及機会の逸失

D. 20歳前障害(発達・精神)
OK:20歳到達時は2級未満→その後“初めて2級以上”に達した時点障害基礎年金開始(所得制限あり)。

5. 他制度・手当との関係(要点)

  • 傷病手当金同一傷病で障害厚生年金に該当→差額調整

  • 労災保険:併給可だが一部調整あり。

  • 障害者手帳別制度(手帳等級と年金等級は連動しない)。
  • 就労支援・合理的配慮:社内制度(休職・短時間勤務・配置転換等)と併用を検討。

6. 計算のしかた(考え方とイメージ)

  • 障害基礎年金:定額(1級=2級×1.25)+子の加算

  • 障害厚生年金:報酬比例(平均標準報酬×係数×加入月数/12)+配偶者加給(12級)3は基礎なし。
    • 300月みなし(保障):被保険者月数が300月(25年)未満でも、計算上は300月として算定。短期加入者の水準を下支えする仕組み。

    • 例:加入120・平均標準報酬が一定の場合でも、月数部分は300として計算。※実額は個々の標準報酬や係数、経過措置等で異なる。

  • 障害手当金:報酬比例ベースの一時金。

  • 概算:ねんきんネットの老齢見込額を基礎に厚生の報酬比例部分を参考。最新額は公表値で確認。

7. 届出フロー(タイミング・書類)

  1. 初診日確定:受診状況等証明書(最初の医療機関)。カルテなし時は紹介状・レセプト・第三者証明等で補完。

  2. 診断書:障害種別ごとの様式(精神・肢体・眼・聴覚・内部 等)。

  3. 請求方式の選択認定日/事後重症/はじめて2
    1. 20歳前障害:認定日は20歳到達日。当時2級以上→認定日請求、未満→事後重症又ははじめて2で開始時点を確定。

  4. 提出:年金事務所。認定日請求は遡及(原則5年)、事後重症・はじめて2級は翌月分から。

  5. 決定後障害状態確認届(1〜5年ごと)。

8. よくある“つまずき”と回避策

  • 初診日が証明できない → 最初の医療機関→ダメなら受診履歴・紹介状・第三者証明で補強。

  • 加入種別の確認漏れ初診日の被保険者種別年金の種類を決める。資格取得・喪失の時期も要確認。

  • 手帳と年金の混同 → 手帳は福祉、年金は所得補償。等級は別基準。

  • 更新漏れ → 診断書期限の管理徹底。

  • 老齢・遺族との選択ミス → 65歳以降の有利な組合せを事前に確認。

9. FAQ

Q1. “はじめて2級”とは?
A. 障害基礎年金の請求方式障害認定日には2級未満だった人が、その後の診療・状態変化で初めて2級以上になった場合、その該当時から支給できる仕組みです(20歳前か否かで所得制限の有無が異なる)。

Q2. 20歳前障害”と“はじめて2級”の違いは?
A. 別概念です。20歳前障害初診日が20歳前のケース一般を指す呼称(所得制限・納付要件不要・認定日は20歳到達日)。はじめて2請求方式の名称で、20歳前・20歳以降のいずれの初診でも使い得ます。

Q3. 初診日にどの年金に入っていたか分からない。
A. 資格記録(年金定期便・基礎年金番号)事業所の資格取得届で照合。2号⇄第1/3の切替月に初診日が跨いでいないかを確認。

Q4. 老齢年金と同時にもらえる?
A. 障害厚生年金と老齢厚生年金は選択障害基礎年金+老齢厚生年金は組合せ可(要件による)。

Q5. 傷病手当金と同時にもらえる?
A. 同一傷病なら傷病手当金は差額調整。別傷病なら原則影響なし。

Q6. どこまで遡れる?
A. 認定日請求が通れば原則5まで遡及。事後重症・はじめて2級は請求月の翌月分から。

10. ミニチェックリスト

  • 初診日を特定(受診状況等証明書)し、初診日の加入種別(第1/2/3号)を確認した

  • 納付要件原則2/3要件または直近1年特例〔初診日の属する月の前々月までの1年間未納なし〕)を確認した ※20歳前障害は不問

  • 請求方式(認定日/事後重症/はじめて2級)を決め、20歳前障害の有無を整理した

  • 診断書様式病歴・就労状況等申立書を準備した

  • 他制度(傷病手当金・労災・手帳)との関係を確認した

  • 更新(障害状態確認届)の時期をカレンダー管理した

参考

  • 日本年金機構:障害年金ガイド/診断書様式/請求手続
  • 厚生労働省:障害認定基準・Q&A
  • ねんきんネット:見込額試算ツール・照会
  • 社内規程:休職・復職・短時間勤務・障害者雇用・合理的配慮の手続

NotebookLMを使い、Podcast風に上記資料を説明しています。