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第5回 失業給付(基本手当)の受給条件と手続き
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失業給付(基本手当)とは?
雇用保険の失業給付(基本手当)は、会社を辞めて仕事が見つかるまでの生活をサポートする給付金です。働いていた人が退職後に新しい仕事を探す間、一定期間の収入を補う目的で支給されます。受給できる期間や金額は法律で定められており、条件を満たし所定の手続きを行うことで受け取れます。ただし、誰でも自動でもらえるわけではなく、受給には要件を満たし、ハローワークで所定の手続きをする必要があります。
給付の目的は、失業中の経済的不安を軽減し、生活の安定を図りながら1日でも早い再就職を促すことにあります。受給中はハローワーク(公共職業安定所)が就職支援サービスを提供し、職探し活動への取り組みも求められます。受給者は制度を正しく理解して活用し、新たな仕事へのスタートにつなげることが大切です。
受給できる人の条件(失業の状態とは)
失業給付を受け取るには、まず**「受給資格者」にならなければなりません。以下のすべての条件**を満たす人が「失業の状態」にあると認められ、基本手当の支給対象者となります。
- 就職する意思があること – 単に退職しただけでなく、積極的に働こうという意思があること。
- 就職できる能力があること – いつでも働ける健康状態や環境にあり、労働する能力があること。
- 現在職がないこと – 積極的に仕事を探しているにもかかわらず、現在職業についていないこと。
これらを満たして初めて「失業中」とみなされ、雇用保険の基本手当の受給資格が得られます。言い換えれば、「働く意思と能力があり、求職活動をしているが職がない状態」であることが重要です。例えば、「しばらく休みたい」「すぐには働くつもりがない」といった場合は失業給付の対象外となります。また、ハローワークで求職の申し込み(求職登録)を行っていることも必要です。
雇用保険の加入期間と離職理由の影響
基本手当を受け取るための主な条件には、雇用保険の加入期間(被保険者期間)と退職した理由(離職理由)の2つがあります。自己都合退職か会社都合退職かで条件や手続き開始時期が異なります。
- 雇用保険の加入期間要件: 一般的に、退職前の直近2年間に通算12か月以上雇用保険に加入していることが必要です。この「12か月」とは、各月で11日以上勤務した月を1か月とカウントします(雇用保険法の規定)。もし加入期間が不足していると受給資格自体が得られません。例として、新入社員で在職期間が半年しかないような場合、自己都合で退職したときは基本手当を受け取れないので注意が必要です。
- 自己都合退職の場合(一般の離職者): 上記の加入期間12か月以上に加え、先述の**「失業の状態」にあること**(働く意思・能力があり、求職活動中であること)が求められます。自己都合退職では、給付開始まで一定の待機・制限期間が設けられる点も影響します(後述)。
- 会社都合退職の場合(倒産・解雇など特定受給資格者等): 加入期間要件が緩和され、退職前の直近1年間に通算6か月以上の加入でも受給資格を得られます。会社都合で離職した場合は条件が優遇され、給付制限期間(後述)がなく早く失業保険を受け取れるのが特徴です。例えば、入社半年で会社都合退職となった場合でも6か月の被保険者期間があれば受給資格を得られます。
- 正当な理由のある退職(特定理由離職者): 病気や介護、契約期間満了などやむを得ない事情で離職した場合も、会社都合と同様に加入6か月以上で受給資格を得られ、給付制限がありません。自己都合退職でも正当な理由があるケース(いわゆる特定理由離職者)では、このような特例が適用されます。
まとめると、雇用保険の加入期間要件を満たし、かつ失業状態にあることが基本手当受給の前提です。その上で、離職理由によって給付開始のタイミングや給付日数に違いが出ます。自己都合退職の場合は条件がやや厳しく、会社都合退職の場合は条件緩和と早期給付と覚えておきましょう。
所定給付日数の決まり方(もらえる日数)
基本手当を受け取れる日数(所定給付日数)は、離職時の年齢、雇用保険の被保険者であった期間(勤続年数に相当)、そして離職理由によって決まります。一般的には勤続年数が長いほど、そして会社都合退職など給付日数が優遇される離職理由ほど、もらえる日数が多くなります。
- 自己都合退職(一般受給資格者)の場合:勤続年数に応じて90日~150日が所定給付日数となります。若年層~定年前まで全年齢で共通の日数テーブルが適用され、雇用保険の加入期間が1年以上で90日、5年以上で120日、10年以上で150日と段階的に伸びます。例えば、新卒後3年間勤務し自己都合退職した場合は90日間、15年間勤務の場合は120日間、20年以上勤務なら150日間の基本手当がもらえる計算です。
- 会社都合退職(特定受給資格者)の場合:年齢区分と勤続年数によって90日~最大330日まで給付日数が手厚く設定されています。若い人ほど自己都合と同じか少し長い程度ですが、中高年で勤続年数が長いほど大幅に日数が増えます。例えば、20代で3年勤務なら90日(自己都合と同じ)、30代で5年勤務なら180日、45歳以上で20年以上勤務した場合は最長330日受給できる仕組みです。このように年齢が高いほど再就職に時間がかかる傾向を考慮して、45歳以上では給付日数がさらに延長されています。
- 特定理由離職者(やむを得ない自己都合や契約満了等)の場合:離職理由によって2種類に分かれますが、一般に給付制限なしで日数優遇ありのケース(特定理由離職者Ⅰ)と、給付制限なしで日数優遇なしのケース(特定理由離職者Ⅱ)があります。前者(Ⅰ)は会社都合と同等の日数(倒産解雇と同じ優遇日数)、後者(Ⅱ)は自己都合と同じ日数となります。例えば契約社員で更新なし退職は特定理由離職者Ⅰに該当し会社都合同様の日数、病気退職など正当理由付き自己都合は特定理由離職者Ⅱで自己都合と同じ日数になります。
以上をまとめると、自己都合退職では最長150日、会社都合退職では最長330日と大きな開きがあります。例えば自己都合退職者の上限150日は約5か月分、会社都合退職者の上限330日は11か月分に相当します。多くのケースでは勤続年数が長いほど給付日数も増えるので、長年勤めていた方ほど手厚くサポートされる仕組みです。また、障害者など就職が特に困難な方の場合は**別枠(就職困難者)**としてさらに長い給付日数(最長360日)が設定されています。
(※)所定給付日数は**「離職日の翌日から1年以内」に失業の状態にある日について受給できます。1年を超えると日数が残っていても受給できなくなるため、給付日数をすべて消化する前に再就職しなかった場合でも原則1年で打ち切り**となります(後述の「受給期間延長」を利用した場合を除く)。給付日数が多い場合、受給期間も長期化するため、しっかり把握して計画を立てましょう。
基本手当日額の算定方法(もらえる金額)
基本手当日額とは、1日あたりに受け取れる失業給付の金額のことです。これは**退職前の賃金(日給換算)**に基づいて算出され、賃金日額の約50~80%に相当する金額が支給されます。一般に賃金が高かった人ほど給付率(支給割合)は低くなり、賃金が低かった人ほど割合が高く設定されています。これは収入が多かった人はある程度自己資力があるだろうという考えから、高収入者の置かれる給付率が抑えられているためです。一方で低収入だった人には手厚くし、生活を支えやすくする配慮があります。
賃金日額の計算方法: 退職前6か月間の給与総額を180日で割った額が**「賃金日額」になります(ボーナス等除く、各種手当は一定範囲で含む)。例えば月給換算で20万円程度なら賃金日額はおよそ約6,600円前後となります。この賃金日額に上述の50~80%の給付率を掛けたものが基本手当日額です。給付率は年齢や賃金額により細かく変動しますが、多くの方は50~80%の範囲に収まる**よう計算されます。
基本手当日額の上限・下限: 基本手当日額には法定の上限額と下限額が定められています。令和6年8月からの上限額は年齢区分により7,065円~8,635円となっており、それ以上高い賃金だった場合でもこの上限が適用されます。逆に最低でも2,295円は保証されており、賃金が非常に低かった人でもこの下限額が支給されます。例えば賃金日額が1,500円相当のパート勤務者でも実際は2,295円(下限額)が支給されます。
参考: 基本手当日額は毎年見直されることがあります(賃金水準の変動に応じて毎年8月1日に改定)。自分が受給するときに具体的にいくらもらえるのか、その時点の上限額・下限額や自分の賃金日額に対する給付率を確認しておきましょう。
離職票の取得から受給開始までの手続きフロー
ここでは退職後に基本手当を受給するまでの一連の手続きを、順を追って説明します。新入社員やパートの方にもわかりやすいよう、フローチャート形式で流れを整理します。
- 退職と離職票の入手
まず勤務先を退職したら、会社から**「雇用保険被保険者離職票-1・2」(離職票)が交付されます。離職票は雇用保険の受給手続きに必要不可欠な書類**で、退職日から10日程度で会社から郵送されてくるのが一般的です(会社によっては手渡しの場合もあります)。離職票には退職理由や雇用保険加入期間などが記載されており、ハローワークでの審査に使われます。退職後2週間ほど経っても離職票が届かない場合は、会社に確認しましょう。万一、会社が倒産した・担当者と連絡がつかない等で離職票が手に入らないときは、ハローワークに相談すれば対処してもらえます。 - 必要書類の準備
離職票が手元に揃ったら、ハローワークでの申請に備えて以下の必要書類を用意します。- 離職票-1・離職票-2(会社から交付されたもの)
- 雇用保険被保険者証(在職中に会社から渡されている書類)
- 本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカード、パスポート等)
- マイナンバー確認書類(マイナンバーカードが無い場合は通知カードや住民票など)
- 証明写真 2枚(縦3cm×横2.4cm、最近6か月以内に撮影の上半身)
- 本人名義の銀行預金通帳またはキャッシュカード(給付金の振込先確認用)
- (障害者手帳等、該当者のみ)
書類不備があると手続きに時間がかかるため、退職後なるべく早く準備しておきましょう。特に離職票は発行に時間がかかる場合もあるため、退職したらすぐ会社に発行を依頼することが大切です。離職票が届くまでの間に他の書類を揃えておけば、離職票入手後スムーズに手続きができます。
- ハローワークで求職申し込み・受給手続きをする
必要書類が揃ったら、居住地管轄のハローワークに行き、求職の申し込みと雇用保険の受給手続きを行います。具体的には、ハローワークの窓口で求職申込書に記入し(事前にオンライン仮登録していれば一部省略可)、前述の書類一式を提出します。窓口では簡単な職業相談(今後の求職方針の確認など)も行われます。ここでハローワーク側が**受給資格の確認(加入期間や離職理由のチェック)を行い、問題なければ「受給資格決定」**となります。
ポイント: 求職の申し込み(求職登録)は、「働く意思あり」を示すため必須です。会社を辞めただけでは自動的に失業保険はもらえないので、自らハローワークに行き、求職者登録と受給手続きを行う必要があることを覚えておきましょう。
この書類提出を行った日が「受給資格決定日」となり、その日から7日間の待期期間がスタートします。同時に、ハローワークから**「雇用保険受給者説明会」**の日時が指定されます。説明会への参加は受給に必須なので、指定日時を忘れないようメモしておきます。
- 待期期間(7日間)
待期期間とは、受給資格決定日から連続7日間、基本手当が支給されない期間のことです。この7日間は**失業給付の世界共通の「待機」**であり、離職理由に関わらず全ての受給資格者に課されます。待期期間中は給付金は一切支給されませんが、求職活動は継続して問題ありません(多くの場合、待期中に雇用保険説明会が開催されます)。7日間経過した日の翌日に待期満了となり、この日以降が基本手当の支給対象期間となります。
例: 4月1日に受給資格決定した場合、4月7日までが待期期間で、4月8日から支給対象となります。
- 給付制限期間(自己都合退職者のみ)
自己都合退職など一部のケースでは、待期満了後もすぐには給付が始まらず、さらに一定期間の支給停止(給付制限)が設けられます。給付制限とは、待期終了後からさらに一定期間(原則1か月)基本手当が支給されない期間のことです。令和7年(2025年)4月以降の自己都合退職では給付制限は原則1か月となりました(それ以前の退職では原則2か月)。この間、失業認定は受けますが基本手当の振り込みはありません。- 繰り返し自己都合退職した場合: 過去5年以内に2回以上、正当な理由のない自己都合退職で受給した経歴がある場合、給付制限は3か月に延長されます。
- 重責解雇(重大な責任による解雇)の場合: 自己の責めに帰すべき重大な理由で解雇された場合も給付制限3か月です。
会社都合退職や特定理由離職者の場合、給付制限期間はありません。待期期間終了後、直ちに基本手当の支給対象となります。ただしいずれの場合も待期7日間は共通なので混同しないよう注意しましょう。
まとめ: 自己都合退職では7日+原則1か月(2025年以降)=約1か月強は手当を受け取れません。一方、会社都合退職では7日後すぐに給付開始となります。
- 雇用保険受給者説明会への参加
受給資格決定時に案内された雇用保険受給者説明会に出席します。この説明会は基本手当を受給する全員が一度は参加必須のもので、ハローワーク職員から失業給付の受給手続きの流れや、求職活動のルールについて説明を受けます。説明会当日は雇用保険受給資格者証(受給資格の証明書)と失業認定申告書が交付されます。受給資格者証にはあなたの給付日数や日額などが記載されており、今後の失業認定日に必要となる大事な書類です。失業認定申告書は後述する失業認定の際に求職活動状況を報告する書類で、毎回提出することになります。
補足: 説明会は通常ハローワーク内で定期的に開催されており、待期期間中または給付制限期間中に行われます。指定された日時に必ず参加してください(やむを得ず欠席した場合はハローワークに相談を)。
- 初回の失業認定日と基本手当の振り込み
ハローワークが指定した失業認定日(認定日)に出頭し、初回の失業認定を受けます。失業認定日とは、4週間に1度ハローワークで「失業の状態にあること」の確認を受ける日のことです。初回認定日に持参するものは、説明会で受け取った雇用保険受給資格者証と失業認定申告書です。初回については少なくとも1回以上の求職活動実績があれば失業認定を受けられます(多くの場合、説明会への参加自体が求職実績とみなされます)。
初回認定が無事行われると、その約1週間後に基本手当が銀行口座へ振り込まれます。初回振込額は、待期期間満了日の翌日から初回認定日までの日数分です。ただし自己都合退職で給付制限がある場合、実際の初回振込はさらに先になります。会社都合退職の方が比較的早く初回振込を受けられる傾向です。一般的に、手続き開始から初回振込までは約4週間程度かかるとされています。スケジュールに余裕をもって手続きしましょう。
例: 自己都合退職で4月1日に手続きをした場合、7日間待機+1か月給付制限があるため、初回認定日は5月上旬になります。初回振込は5月下旬~6月頃となり、それまで収入が途絶える点に注意が必要です。一方、会社都合退職なら4月中に初回認定・振込が行われ、給付開始が早まります。
※令和7年1月27日より、ハローワークへの来所が難しい求職者は、オンラインによる失業認定が受けられるようになりました。
- 継続して受給する場合の認定日(2回目以降)
基本手当の受給を継続する場合、4週間ごと(約1か月ごと)に定められた失業認定日にハローワークへ通い、失業認定を受け続ける必要があります。2回目以降の認定では、直近の認定対象期間に少なくとも2回以上の求職活動実績が求められます。例えば求人への応募、企業面接への参加、職業相談の利用などが実績になります。認定日に提出する失業認定申告書に、期間中に行った求職活動の内容を記入し報告します。
認定を受けるとその期間(通常28日分)の基本手当が支給決定され、認定日から数日後に指定口座へ振り込まれます。このサイクルを、所定給付日数を使い切るまでまたは就職が決まるまで繰り返します。給付日数が残っている限り、4週間ごとに失業認定日→基本手当振込を繰り返す形になります。
注意: 失業認定日はハローワークごとに指定された日程で行われ、指定日に出向かないとその期間の手当がもらえません。やむを得ない理由なく認定日に行かなかった場合、受給資格が取り消されることもあります。必ず決められた認定日にハローワークに行きましょう。
- 受給終了または再就職
所定給付日数分の基本手当を受け終えるか、あるいは途中で就職先が決まった場合、失業給付の受給は終了となります。給付日数をすべて使い切る前に就職が決まった場合には、後述する再就職手当(就業促進手当)を受け取れる場合があります。再就職手当を受給した場合でも、残りの基本手当日数は消化扱いとなり失業給付は終了します。
通常、受給期間(基本手当の有効期間)は離職日の翌日から1年間です。給付日数が残っていても、この1年の期限を過ぎると受給できなくなるため注意してください。ただし、病気や出産などですぐに求職できない場合は受給期間を延長できる制度があります(後述「受給期間の延長」参照)。
再就職や受給終了にあたっては、ハローワークへの報告・手続きが必要です。就職した場合は基本手当の支給停止手続きを行い、雇用保険受給資格者証は手元で保管します。万一短期間で離職し再度失業状態になった場合、残り日数を受給再開できることもあります。受給終了後に再度離職した際は、新たに受給資格を取得していれば再び失業給付の申請も可能です。
以上が退職から基本手当受給までの一連の流れです。図解すると以下のようになります(自己都合退職の場合):
- 退職 → 離職票入手 → ハローワークで求職申込・受給手続(受給資格決定) → 7日待期 → (自己都合なら+1か月給付制限) → 雇用保険説明会参加 → 初回失業認定日 → 基本手当振込開始 → 以降4週間ごとに失業認定・振込 → 再就職または支給終了。
具体例:新入社員が自己都合退職した場合
最後に、典型的なケースとして新入社員が自己都合退職した場合の受給シミュレーションを示します。実例に沿って流れと給付内容を確認しましょう。
例: 大学卒業後、Aさん(25歳)は正社員として1年間勤務しましたが、家庭の事情で自己都合退職するとします(離職理由:自己都合退職、特定理由該当なし)。Aさんの在職期間はちょうど12か月、退職時の給与は月額20万円程度でした。
- 受給資格の確認: 雇用保険の被保険者期間は在職12か月で条件クリアです(自己都合退職の場合、直近2年で12か月以上の加入が必要)。Aさんは受給資格者となり得ます。また、離職後も働く意思と能力があり求職活動を行う予定なので、「失業の状態」に該当します。
- ハローワークでの手続き: 退職後、会社から届いた離職票を持って管轄ハローワークへ。求職の申し込みと受給手続きを行い、○月○日に受給資格決定となりました。ここから7日間の待期に入ります。
- 待期と給付制限: 自己都合退職のため、7日間の待期満了後さらに1か月の給付制限があります(2025年4月1日以降の退職なので給付制限は1か月)。したがって、手続き日から約1か月後までは基本手当の支給がありません。この間に雇用保険説明会へ参加し、求職活動も継続します。
- 所定給付日数: Aさんの場合、自己都合退職かつ勤続1年なので所定給付日数は90日です。つまり最大90日間分の基本手当を受け取れます(受給期間は離職翌日から1年間)。
- 基本手当日額の目安: Aさんの退職前6か月の平均賃金日額は約6,600円と算定されました(20万円/月程度と仮定)。自己都合退職で25歳という条件では給付率はおよそ60%前後となり、基本手当日額は約4,000円と見積もられます。実際には年齢区分と賃金額から細かく算定されますが、大きく外れることはありません(※上限額6,945円・下限額2,196円の範囲内)。
- 初回認定と振込: 待期7日+給付制限1か月を経て、手続き日から約5週間後に初回の失業認定日を迎えました。Aさんは求職活動を着実に行い、無事認定を受けました。初回振込はその認定日の約1週間後に行われ、基本手当約20日分(給付制限明けから認定日までの日数分)が銀行口座に振り込まれました。金額にすると約4,000円×20日=8万円程度になります。
- 継続受給: その後もAさんは再就職先を探しながら毎月ハローワークで失業認定を受け、2回目以降は4週間ごとに約4,000円×28日=約11万円ずつ振り込まれました。90日分の基本手当を使い切ると受給は終了です。もし90日以内に再就職が決まれば、残日数に応じて再就職手当を申請できます(例えば60日分残して就職すれば約残額の60~70%が支給される可能性があります)。
- 再就職手当(参考): 仮にAさんが失業給付の途中で新たな就職先を見つけた場合、就業先が1年以上継続見込みの雇用であれば再就職手当を受けられるケースがあります。Aさんが基本手当の所定給付日数90日のうち30日分を受給し終えた時点で再就職したとすると、残日数は60日です。これは所定日数の3分の2以上残しての再就職に該当するため、**残り60日分の基本手当相当額の70%**が再就職手当として支給されます。仮に基本手当日額4,000円なら、60日×4,000円×70%=168,000円が一時金として受け取れる計算です。
この例のように、新入社員クラス(勤続年数が短い若年層)の自己都合退職では**「加入期間12か月以上+90日給付+給付制限あり」が一つのモデルケースとなります。受給総額は月給の半分程度×3か月分、つまりおおよそ給与1.5か月分~2か月分**ほどの支給にとどまります。失業保険だけで長期間生活するのは難しいため、計画的な求職活動で早期に再就職することが望ましいでしょう。
失業給付に関するよくある質問(Q&A)
最後に、基本手当に関して受講者からよくある質問とその回答をQ&A形式でまとめます。
Q1. 給付期間中にアルバイトをしてもいいですか?
A. 一定の条件下で可能ですが、事前申告が必要です。基本手当を受給中でも、週20時間未満の短時間労働で収入が一定額以下であれば、働くこと自体は禁止されていません。ただし労働時間や収入が多い場合、その日は「失業の状態」とみなされず基本手当が一時停止(その日の支給がゼロまたは減額)されることがあります。アルバイトをする際は、事前にハローワークへ申告してください。申告せずに収入を隠して受給すると不正受給とみなされ、発覚時には受給額の返還に加えペナルティ(追加徴収など)が科されます。正しく申告していれば問題ありませんので、規則を守って活用しましょう。
Q2. 再就職手当とは何ですか?どんなときにもらえますか?
A. 再就職手当とは、失業給付の所定給付日数をまだ残して早期に再就職した場合に受け取れる一時金です。失業保険を最後まで受け取るよりも早く働き始めた方が有利になるよう設けられた制度です。主な受給要件は「基本手当の支給残日数が所定日数の3分の1以上残して安定した職業に就くこと」などで、具体的には以下の条件をすべて満たす必要があります。
- 受給残日数が所定日数の1/3以上ある状態で再就職したこと
- 再就職先で1年以上勤務する見込みがあること
- 待機満了後に就職したこと(給付制限期間中の場合はハローワーク紹介の就職が条件)
- 前職の会社と関係ない会社に就職したこと(前の勤務先への出戻りではない)
- 過去3年以内に再就職手当または就業促進手当を受けていないこと
- 受給手続き前から内定していた会社ではないこと
- 再就職先で雇用保険の被保険者資格を取得すること(週20時間以上の雇用)
再就職手当として支給される額は、残っていた基本手当相当額の一部(60~70%)です。具体的には、所定給付日数の3分の2以上を残して再就職した場合は残額の70%、1/3以上残して再就職した場合は**残額の60%**が支給されます。例えば所定90日のうち60日分を残して再就職した場合は、残60日分の70%=42日分相当の基本手当が一時金としてもらえる計算です。
※再就職手当を受給するには必ず申請が必要です。再就職先が決まったら雇用保険受給資格者証を持参のうえハローワークで手続きを行いましょう。申請が認められれば、所定の審査期間を経て支給されます。
Q3. 病気や出産ですぐ働けない場合、失業給付はどうなりますか?
A. すぐに求職できない場合は**「受給期間の延長」手続きを行うことで、基本手当を後日に持ち越すことが可能です。通常、基本手当は離職翌日から1年以内に受給し終える必要がありますが、退職後に30日以上続けて就職できない事情**(病気・けがによる療養、妊娠・出産・育児、親族の介護、進学など)がある場合、ハローワークに申請することで受給期間を延長できます。
延長申請が認められると、本来1年の受給期間に「働けなかった日数」を加えることができ、就職できる状態になった後に改めて手続きして基本手当を受給できます。延長できる期間は最大で3年間までとなっており、1年と合わせて最長4年の間に受給する形にできます。例えば退職後に1年間育児に専念する場合、延長手続きをすれば育児期間が終わった後に基本手当の受給手続きを開始できる、という具合です。
- 申請方法: 延長事由が発生した日(離職後に病気になった場合は発症日など)の翌日から起算して1か月以内に、住所地管轄のハローワークで所定の「受給期間延長申請書」を提出します(郵送や代理人申請も可能)。離職票と延長理由を証明する書類(医師の診断書等)が必要です。もし1か月を過ぎても、延長後の受給期間が終わるまで申請は受け付けてもらえますが、申請が遅れると十分受給できない可能性もあるので早めに手続きしましょう。
- 延長後の手続き: 病気療養などが終わり、働ける状態になったら速やかにハローワークで受給手続き開始を行います。延長申請時に交付された「受給期間延長通知書」および離職票などを提出し、求職申し込みをすることで、延長していた基本手当の受給を開始できます。
この制度により、出産・育児等で失業給付を先延ばししたい場合でも権利を保全できます。ただし、65歳以上で離職した場合(高年齢求職者給付金の対象)は延長制度の適用外なので注意してください。
Q4. 失業給付を受けている間に再就職先が見つかったらどうすればいいですか?
A. 再就職が決まったら、速やかにハローワークに報告して基本手当の受給停止手続きを行います。再就職日以降は基本手当の支給対象外となりますので、通常は最後の失業認定を受けて受給終了となります。再就職先で雇用保険に加入する場合、離職票は発行されませんが雇用保険資格喪失確認通知書等で就職日の証明が行われます。
前述のとおり、条件を満たせば再就職手当の申請が可能ですので、忘れずに手続きを行いましょう。再就職後、一定期間勤務した後に離職した場合(例えば試用期間で辞めた等)、残っていた基本手当日数の受給再開ができるケースもあります。具体的には、再就職手当を受けた後でも受給期間内で基本手当の残日数があれば、受給期間満了日前に再び失業状態になったとき残りの基本手当を受け取ることができます(もっとも、新しい職場で雇用保険加入要件を満たし離職した場合は新たな受給資格での申請になることもあります)。
いずれにせよ、再就職先が決まったら早めにハローワークへ。就職日の前日までの失業認定を受けて基本手当の支給停止措置を行い、再就職手当の申請も同時に進めましょう。再就職後6か月以内で辞めてしまうと再就職手当の一部が支給されない場合もありますので、計画的に就業することが大切です。
以上が、新入社員・パートタイマーの方にも知っておいていただきたい失業給付(基本手当)の受給条件と手続きの概要です。「働きたいのに仕事がない期間」に支給される大切な制度なので、万一離職することになった場合には今回の内容を思い出し、落ち着いて手続きを進めてください。必要な条件や手続きを正確に理解し、失業給付を上手に活用することで、退職後の新たなスタートを安心して切ることができるでしょう。
参考資料: 厚生労働省「雇用保険の基本手当Q&A」、ハローワークインターネットサービスなど。
NotebookLMを使い、Podcast風に上記資料を説明しています。