※ 労働者も知っておきたい、労働保険と社会保険の情報を、詳しくと分かりやすさのバランスをとった内容でまとめ、シリーズ化してご提供します。
◆
第1回 雇用保険の基本
◆
雇用保険とは何か(制度の目的と仕組み)
雇用保険は、「仕事がなくなったときに備える公的保険」です。正社員やパートタイマー・アルバイトなどが失業した際に、再就職活動中の生活を支える給付金(失業給付)を支給し、生活の安定と早期再就職を促進することを目的としています。具体的には、おおむね約3か月から1年程度、給与の代わりとなる失業等給付(いわゆる失業手当)が支給されます。また、失業時だけでなく、育児休業や介護休業で一時的に働けない場合にも、一定期間「育児休業給付金」や「介護休業給付金」が支給されるなど、働く人のライフイベントを支援する仕組みも含まれています。これらの給付に必要な財源は、労働者と事業主の双方からの保険料負担(毎月の給与から所定率を天引き)および国庫負担によってまかなわれています。例えば令和6年度(2024年度)では、一般の事業の場合労働者負担0.6%程度(賃金の千分の6)という保険料率で保険料が徴収され、同程度を事業主も負担しています。このように、雇用保険は働く人みんなで保険料を出し合っておき、いざ収入が途絶えたときに助け合う社会保障制度の一つです。
ポイント:労働保険と社会保険の位置づけ 雇用保険は「労働保険」に分類され、労災保険と並んで厚生労働省が管轄する労働者のための保険制度です。後述する健康保険や厚生年金保険は「社会保険」(狭義には厚生年金・健康保険など)と呼ばれ、管轄や制度が異なります。本セミナーではまず労働保険(雇用保険・労災保険)、次いで社会保険(健康保険・厚生年金)の順に解説していきます。
適用対象(誰が雇用保険に入るか)
雇用保険の被保険者となる対象は、「一定の雇用条件で働く労働者」です。具体的には以下の3つの条件をすべて満たす労働者は必ず雇用保険に加入させなければなりません。
- ① 雇用契約期間が31日以上見込まれること:雇用の見込みが初日から継続して31日以上あること。契約期間に定めがない常用労働者はもちろん、たとえ当初の契約期間が31日未満でも更新の可能性がある場合は加入対象となります(※更新が一切なく31日未満で終了することが明確な場合のみ除外)。
- ② 1週間の所定労働時間が20時間以上であること:週あたりの所定労働時間(雇用契約上の時間)が20時間以上であること。短時間労働者(パートタイマー等)でも、週20時間以上働けば雇用保険の対象です。ただし所定労働時間が週20時間未満の人は対象外となります(残業など実際の労働時間が20時間を超えていても、契約上20時間未満なら加入しません)。
- ③ 学生ではないこと:昼間学生(在学中の学生アルバイトなど)は原則として対象外です。ただし夜間部や通信制の学生、および卒業見込みで卒業後も引き続き勤務することが決まっている学生等は例外的に加入対象となります。要件①②を満たせば、これら例外の学生や内定者アルバイトも雇用保険に入ります。
以上の条件を満たす労働者(新入社員やパートタイマーを含む)は雇用形態に関わらず全員加入義務があります。雇用保険への加入手続きは会社(事業主)の法的義務であり、一人でも社員を雇えば事業所単位で強制適用されます。もし会社が加入手続きを怠った場合は法律違反となり、最悪罰則の対象にもなり得ます(未加入だった場合でも後から遡って加入手続きが指導されます)。
補足:被保険者区分 雇用保険には働き方に応じていくつかの被保険者区分があります。一般的な会社員・パートは「一般被保険者」と呼ばれます。季節的な短期雇用(4か月未満など)は「短期雇用特例被保険者」、日々雇用や30日以内の短期契約労働者は「日雇労働被保険者」として扱われ、給付内容が一部異なります。また、かつては65歳以上になると雇用保険に入れませんでしたが、現在は年齢制限が撤廃されており、65歳以上でも週20時間以上働けば「高年齢被保険者」として雇用保険の適用対象になります(高年齢被保険者には通常の失業手当の代わりに「高年齢求職者給付金」(一時金)が支給されます)。
雇用保険の加入手続きと被保険者証
雇用保険への加入手続きは、事業主(会社)がハローワークを通じて行います。新たに従業員を雇い入れた場合、雇用保険の被保険者となる条件を満たす人については**「雇用保険被保険者資格取得届」を入社した翌月10日までにハローワークへ提出しなければなりません。事業所が初めて従業員を雇う場合には、同時に「労働保険関係成立届」(労災・雇用保険の保険関係の設立届)や「雇用保険適用事業所設置届」**も提出し、事業所単位で雇用保険適用事業所として登録します。
被保険者として受理されると、ハローワークから**「雇用保険被保険者証」が発行されます。この書類には被保険者番号(11桁の番号)や氏名・生年月日が記載され、あなたが雇用保険に加入していることを証明する書類です。被保険者証は発行後、原則労働者本人に渡すことになっていますが、実務上は「入社時には会社が保管し、退職時に本人に手渡す」というケースが多いです。転職時にはこの被保険者証が必要で、新しい就職先に提出を求められます。前職までの雇用保険加入期間や番号を引き継ぐためです。したがって退職時には必ず会社から雇用保険被保険者証を受け取り**、自分で保管しておきましょう。もし紛失してしまった場合でもハローワークで再発行できますが、手続きに手間がかかるため注意が必要です。
なお、毎月の給与から控除されている**「雇用保険料」**も、この資格取得の届け出に基づいて徴収が始まります。雇用保険料は前述の通り労使折半で負担し、会社が給与天引きして納付します。自分の給与明細に「雇用保険料」欄があれば、そこに記載されている金額が毎月あなたが負担している保険料です(給与額に保険料率をかけて計算します)。万一、雇用保険加入対象なのに給与から保険料が引かれていない場合は、会社が未加入の可能性もあります。そのような場合は速やかに人事担当者に確認しましょう(会社には遡って加入手続きを行う義務があります)。
給付の種類と受給までの流れ
雇用保険では、主に失業時や雇用継続が困難な場合に様々な給付が用意されています。給付金の種類は目的によって大きく4つに分類できます。
- 求職者給付(基本手当など) – 失業した求職者本人に支給される給付金です。一般に「失業保険(失業手当)」と呼ばれるものがこれに当たります。基本手当(失業手当)は、退職した労働者が再就職するまでの生活を支援するために支給されるもので、受給できる日数は90日から最大360日まで、雇用保険の加入期間や退職理由に応じて決まります。高齢者や季節労働者、日雇い労働者にはこれとは別の特例給付(一時金など)が支給されます。
- 就職促進給付(再就職手当等) – 早期の再就職を促すための給付金です。失業手当を受給中の人が早めに再就職した場合、残りの支給日数に応じて再就職手当が支給されます。他にも、再就職後一定期間定着した場合の就業促進定着手当や、広域求職などの場合の就業手当(※2025年4月廃止予定)などがあります。
- 教育訓練給付 – 働く人のスキルアップを支援するため、厚生労働大臣指定の講座を修了した際に受講費用の一部を支給するものです。一般教育訓練給付(上限20%・年上限10万円)や専門実践教育訓練給付(上限50-70%・年間上限40万円)など種類があり、看護師や介護福祉士、美容師などの資格講座を受ける場合などに活用できます。自己負担で職業訓練を受ける際は積極的に利用したい制度です。
- 雇用継続給付 – 育児・介護休業や高年齢者の継続雇用を支援する給付金です。代表的なものに育児休業給付金(子どもが1歳になるまで※一定条件で最長2歳まで延長)と介護休業給付金(家族の介護のための休業取得時)があり、休業開始時賃金日額の50~67%相当(育児休業給付金は2025年の制度改正で実質80%へ引上げ)を休業中の所得補償として受け取ることができます。これらは休業前の2年間に雇用保険の被保険者期間が通算12か月以上あることが支給要件です。また、高年齢雇用継続給付は60歳以上65歳未満で給与が大きく減少した場合に支給される給付金で、賃金低下分の一部(改正により2025年以降支給率縮小)が支給されます。
失業手当を受け取るまでの一般的な流れ
雇用保険の一番身近な給付である**失業手当(基本手当)**について、その受給までの大まかな流れを確認しておきましょう。以下は自己都合退職(一般的な離職者)の場合の手続き例です。
- 会社を退職する – まず離職(退職)します。会社都合・自己都合いずれの場合も、退職によって雇用関係が終了した時点で失業手当の受給要件を満たす可能性が生じます。※定年退職や契約満了も含め「離職票に記載される離職理由」が後の手続きに影響します。
- 会社から離職票を受け取る – 退職後、会社は**「雇用保険被保険者離職票」**を発行します。離職票は失業給付の受給手続きに必要な重要書類で、通常退職後1~2週間程度で会社から郵送または手渡しされます。離職票が届かない場合は会社に問い合わせるか、管轄ハローワークに相談しましょう。離職票がないと基本手当の申請ができません。
- ハローワークで求職申込み・受給手続き – 自分の居住地を管轄するハローワークに行き、求職の申込みと失業給付の受給手続きを行います。必要書類は「離職票1・2」「雇用保険被保険者証」「マイナンバー確認書類と身分証」「証明写真(縦3cm×横2.5cm)2枚」「印鑑」「本人名義の預金通帳」等です。初回手続き時に雇用保険受給資格の決定がなされ、自分が受給資格を満たすか(雇用保険加入期間の要件など)と、離職理由区分(自己都合か会社都合か等)がハローワークによって確認されます。受給資格が決まると**「雇用保険受給資格者証」**という書類が交付され、以後の失業認定日に必要となります。
- 待期期間(7日間) – 手続きを完了すると、まず7日間の待期期間に入ります。この間は失業手当は支給されません。ハローワークから後日**「雇用保険受給者初回説明会」の日程案内と「雇用保険受給資格者のしおり」**が渡されます。
- 給付制限期間(自己都合退職の場合) – 自己都合退職の場合は待期満了後、現在約1か月間の給付制限期間があります(2025年の法改正により原則1か月に短縮。参照)。この期間はさらに手当の支給が行われません。ただし会社都合退職や契約満了等の特定受給資格者・特定理由離職者に該当する場合、給付制限は課されず待期終了後すぐに手当支給対象となります。
- 初回の雇用保険受給者説明会に参加 – ハローワークが指定した日に開催される説明会に出席します(通常、待期期間経過後すぐに実施)。ここでは失業認定の受け方や求職活動の報告方法など、今後の手続き全般について説明を受けます。説明会に出席しないと以降の失業手当を受けられませんので必ず参加しましょう。
- 求職活動の実施 – 説明会終了後、次回の失業認定日までのあいだに2回以上の求職活動を行う必要があります。求職活動とは具体的に求人への応募や面接、ハローワーク主催セミナーの受講などです。少なくとも2回の活動実績がないと失業手当が支給されませんので注意してください。
- 失業認定日・給付金支給 – ハローワークが定めた4週に1度の失業認定日に来所し、所定の失業認定申告書を提出して求職活動実績を報告します。認定日に「就職せず求職活動を行っている失業状態」であることが確認されると、その認定期間(直近4週間分)の失業手当が後日指定口座に振り込まれます。これで初回の基本手当を受給できます。以降も再就職が決まるまで、おおむね4週間ごとに同様の認定・支給が繰り返されます(支給終了日または就職が決まった時点で給付は停止・終了となります)。
以上が一般的な失業給付受給までの流れです。会社都合退職(倒産・解雇等)の場合は上記の給付制限「5」がなく、待期満了後直ちに支給対象となる点が異なります。また受給日数も会社都合退職者の方が長く手厚い(例:自己都合退職者90日~150日、会社都合退職者90日~330日など)といった違いがあります。いずれの場合も失業手当を受給するには「積極的に求職活動を行う」ことが前提であり、ハローワークでの定期的な失業認定と、求職活動の証明が必要です。安易に受給資格を誤解しないよう気を付けましょう。
よくある誤解・注意点
最後に、雇用保険について労働者が陥りがちな誤解や注意すべきポイントをまとめます。
- 「パートやアルバイトだから雇用保険は関係ない」は誤解 – パートタイマーやアルバイトでも、上記の週20時間以上・31日以上見込みといった条件を満たせば正社員と同様に雇用保険に加入する義務があります。勤務時間の短さや学生アルバイト等で対象外となるケースもありますが、要件に当てはまれば雇用形態に関係なく適用されます。特に社会人経験の浅い方ほど、自分が雇用保険に入っていることを認識していない場合がありますので注意しましょう(給与明細の雇用保険料控除欄で確認できます)。
- 学生アルバイトの扱い – 前述の通り昼間学生は原則適用除外です。そのため、大学在学中のアルバイト等で退職しても雇用保険から失業手当は受け取れません(そもそも加入していないため保険料も払っていない)。一方で、卒業直前から勤務を開始し卒業後も継続雇用される場合や夜間学生・通信制学生であれば、パートタイムであっても雇用保険に加入して給付対象となります。自分が対象かどうか迷ったら、会社やハローワークに確認しましょう。
- 失業手当は無条件にもらえるわけではない – 雇用保険に入っていれば誰でも失業手当がすぐにもらえる、と誤解しないようにしましょう。一定の加入期間要件(一般的な自己都合退職なら離職前2年間に被保険者期間通算12か月以上)を満たして初めて受給資格が得られます。加入期間が短い新入社員などは、退職しても受給要件を満たさない場合があります。また受給にはハローワークでの求職申込みと定期的な失業認定が必要であり、就職の意思がない人には支給されません。自己都合退職では約1か月の給付制限期間もあるなど、すぐに給付金が出ない点にも注意が必要です。
- 離職票の重要性 – 退職時に会社から交付される離職票は失業給付の申請に不可欠な書類です。「離職票なんて要らないだろう」と放置すると、いざ失業手当を受けたいときに手続きできません。万一退職後に離職票が発行されない場合は違法の可能性もあります。その際は会社に請求し、それでも出ない場合はハローワークに相談して発行してもらいましょう。離職票がないと失業給付どころか、家族の健康保険に入る際の証明などでも困る場合があります。
- 在職中の給付(育休・介護休業給付)も見逃さない – 雇用保険の給付は失業手当だけではありません。在職中に取得する育児休業や介護休業に対しても手当金が支給されます。例えば育児休業給付金は、育休開始前の賃金の67%相当(一定期間経過後は50%)が支給される制度で、2025年の見直しで**手取り賃金のほぼ100%に近い水準(給付率80%)**まで引き上げられる予定です。育休・産休に入る際には会社経由で忘れず申請しましょう(原則、自動的に手続きしてもらえますが、自身でも条件を把握しておくと安心です)。被保険者期間が1年未満だと育休給付金は出ない点にも注意が必要です。
- 不正受給は厳禁 – 雇用保険の失業給付を受ける際、虚偽申告や隠れた就労による不正受給は絶対にしてはいけません。例えば失業手当受給中に内緒でアルバイト収入を得たり、就職が決まったのに受給を続けたりすると不正受給となり、発覚すれば**給付金の全額返還に加えて2倍相当の納付命令(計3倍返し)**など非常に重いペナルティがあります。【雇用保険法】違反として刑事処罰の可能性もあります。不正受給がないよう、求職活動や就業状況は正直に申告しましょう。
労働者が知っておくべきポイントまとめ
- 雇用保険は新入社員からパートまで含めた労働者のセーフティネットです。仕事を失ったときや休業するときに所得補償を受けられる重要な制度なので、仕組みを理解しておきましょう。
- **加入条件(週20時間以上・31日以上・学生以外)**を満たす場合、雇用保険への加入は会社の義務です。自分が対象なのに加入手続きがなされていないと感じたら、早めに確認することが大切です。
- 雇用保険被保険者証と離職票は超重要書類です。被保険者証は転職時に必要となるので退職時に必ず受け取り保管します。離職票は失業給付の申請に必須なので、退職後は会社からの受領を忘れないようにしましょう。
- **失業手当を受けるには条件と手続きがあります。**一定の加入期間(一般的には直近2年で12か月以上)が必要で、自己都合退職の場合は待機+給付制限で約1か月半ほど支給まで時間があります。ハローワークでの求職登録・認定手続きを経ないと支給されない点も覚えておいてください。
- 失業中も積極的に就職活動を! 雇用保険はあくまで再就職を支援する制度です。受給中は計画的に求職活動を行いましょう。ハローワークの職業紹介や再就職支援セミナーなども活用し、早期の次のステップに繋げることが大切です。雇用保険には再就職が決まった際に支給される再就職手当など、前向きな行動を後押しする仕組みもあります。
- 在職中の給付制度も確認 – 出産や育児、介護で休業する際には雇用保険からの給付金(育児休業給付金・介護休業給付金)が受け取れます。これらは給与の一部相当が補償されるありがたい制度です。該当する場合は条件を確認し、会社の人事担当と早めに相談しましょう。
- 疑問があれば専門家や公的機関に相談 – 雇用保険の制度は改正も多く複雑です。不明点は会社の社会保険労務士やハローワーク窓口に遠慮なく質問してください。公的なリーフレット「雇用保険のしおり」や厚労省ウェブサイトにも最新情報が掲載されています。正しい知識を身につけ、雇用保険を上手に活用しましょう。
NotebookLMを使い、Podcast風に上記資料を説明しています。
【※次回は「労災保険の基本」について解説予定です。】