先日手続きを行った「特定社会保険労務士」の名簿への付記手続きが完了しました。
令和6年4月1日をもって、正式に「特定社会保険労務士」と名乗れるようになりました。
証票も「社会保険労務士証票」から「特定社会保険労務士証票」へ
当該証票には「上記の者は、令和4年11月1日社会保険労務士の登録を受け、令和6年4月1日特定社会保険労務士の付記を受けたことを証明する。」
という記載に変わりました。
では、改めて「特定社会保険労務士」とは「社会保険労務士」と何が変わるのか?
一般的な言葉では「特定」と付くと特定のこと「のみ」できる場合に使われますが、特定社会保険労務士や特定行政書士で使う「特定」はちょっと違います。
ここでの「特定」は「のみ」ではなく「のこと<も>できる」という意味、つまり+αですよ!という意味になります。
特定行政書士は「行政不服申し立ての代理<も>できる」
特定社会保険労務士は「個別労働紛争解決手続きの代理<も>できる」
という事を意味します。
では「個別労働紛争解決手続き」とは何か?
これは2つに分解して理解する必要があります。
1つは「個別」ということ、もう一つは「労働紛争解決<手続き>」です。
まずは「個別」の意味をご説明します。
この「個別」の対義語は「集団」を意味します。
「集団」とは、「労働者の集団」と「使用者の集団」があります。
「労働者の集団」は、皆さんもよく知る「労働組合」です。
「使用者の集団」は、たまに代表者がニュースで会見などしたりしますが「経団連」や「経済同友会」等です。
それらの対義語が「個別」なわけですから、つまり「労働者個人」と「個々の使用者(法人であれば会社)」を意味します。
そして、それらの紛争「手続き」の代理を行える訳です。
なぜ単に「紛争」代理ではなく「紛争<手続き>」代理なのか?
そこには弁護士法との絡みがあります。
弁護士は、紛争に直接関与(代理)し、和解交渉を即進めることが可能です。
しかし、特定社会保険労務士は、紛争に直接関与という形ではありません。
ちょっと分かりにくいですよね?
例を出すとわかりやすいと思います。
AさんとX社で労働紛争が発生したとします。
弁護士がAさんの代理人となった場合、直接X社に対して損害賠償請求や和解交渉ができます。
では、特定社会保険労務士はどうか?
実は、特定社会保険労務士はそのようなことはできません。
特定社会保険労務士は、労働局等のあっせん「手続き」を利用する場合、民間ADR「手続き」を利用する場合には、労働者や使用者の代理人になれるので、そう言う「手続き」を利用していない(する予定がない)段階で関与はできないのです。
そして、そういう手続きを「利用する予定」というより「利用できる」相談であれば、相談の段階から関与できます。
もし、相談者が労働局等のあっせん手続きや、民間ADR手続きを利用することを「全く想定していない(そのつもりがない)」と判明したら、その時点で特定社会保険労務士は手を引かなければいけません。(そこはもう弁護士の仕事となります)
ちなみに、ADRとは「裁判外紛争解決制度」の略称です。
では、「労働局等のあっせん手続き」、「民間ADR手続き」と2つ例を挙げた理由は何か?
ここの大きな違いは、特定社会保険労務士が単独代理を行える場合の「請求額の上限」が関係しています。
労働局等のあっせん手続きの場合は、請求額の上限はありませんので、請求額が1000万円でも特定社会保険労務士は代理人になることができます。
しかし、民間ADRの場合は、120万円という請求額の制限があります。
なぜ民間ADRにはこのような制限があるのか?
簡単に言えば「民間」だからです。
労働局等であれば「国(労働局の職員)の関与」があるという違いが一番の理由でしょう。
ちなみに、民間ADRとして、各都道府県の社会保険労務士会は「労働紛争解決センター」を設けていますので、労働局でも、社労士会設置の労働紛争解決センターでも、ご自身の労働問題の解決に適した方を選んでいただけます。
上記のとおり、特定社会保険労務士は、使用者または労働者の一方の代理人になれます。
そして、各都道府県の社会保険労務士会「労働紛争解決センター」のあっせん員は、原則「特定社会保険労務士」がなっています。(全センターの事情は分からないので原則と書きました)
なので、仮に各都道府県の社会保険労務士会の「労働紛争解決センター」で使用者も労働者も代理人に特定社会保険労務士を選任した場合、使用者代理人特定社会保険労務士A、労働者代理人特定社会保険労務士B、あっせん員代理人特定社会保険労務士C~E等という、特定社会保険労務士だらけになるわけです。
もちろん、それぞれの立場で職務を行いますので、なあなあになるわけではありませんのでご安心ください。
労働局等によるあっせん手続きも、各都道府県の社会保険労務士会の「労働紛争解決センター」の多くも、手続きの利用に関しては無料です。
ただし、当然、特定社会保険労務士に代理人を依頼(委任)した場合は、その報酬は発生します。
労働局等によるあっせん手続きも、民間ADRも原則1日で処理が行われます。(事前の書類送付などは別です)
そのため、短期間で労働紛争を解決したい場合、明らかに一方に故意や過失(例えば未払い賃金など)がある場合には、これらのあっせん手続きを利用すると、経済的にも、精神的にも負担が少なくて済みます。
弊所も正式に特定社会保険労務士となりましたので、上記のあっせん手続きを利用して問題(紛争)を解決したい場合にはご相談ください。